大型免許

教習所でのバイクの練習は短かった。クラッチの微妙な感覚が忘れないうちという気持ちはあった。一本橋を渡るのに二十秒が必要だった。急いでいくならなんていうことはないが、ゆっくりいくときには橋から落ちるのではないかと心配になった。人並みより少しは良いと思っていた運動神経だったが不安になってくる。バイクを倒したときに持ち上げることが必要であった。一緒に練習していた女性の人はバイクを元に戻すことが苦手だった。手伝うわけにもいかないので、見ているだけだった。ナナハンのバイクを持ち上げるのは男でも大変だなぁと七五〇㏄のバイクでも取るのかという気持ちになっていた。今でこそ七五〇㏄の大型バイク免許は教習所でとれるようになったが、昔は限定解除といって免許センターで科目試験と実地試験の両方を受けて通らなければいけない難しい資格であった。教習所の場合は不合格になっても再講習を受けて再受験できたが、実地試験の場合はそうは上手くいかない。そのため、七五〇㏄を超えるクラスのオートバイを持つということは特別なステイタスであった。会社の先輩が定時に会社を出ていって、楽しそうにどこかにいっていた。それが週二回のペースであった。あるとき飲み会で聞いたなら、バイクの大型免許取得のために教習所に通っているとのことだった。今の還暦を過ぎた世代では特にオートバイへの憧れは強く、その世代が五〇歳を過ぎたくらいにバイクの大型免許が教習所で取れるようになった。そのため、子育てをひと段落付いたところで第二の青春としてバイクの大型免許を取得するということがブームになっていた。