納車

後でわかった。小樽のバイクショップに立ち寄ったときのことだ。チェーンが伸びているので直してほしかった。店員が言った。「こんなバイク良く乗るね!」(???)「後ろに来な。リアタイアが中心線からずれているだろ。」確かにズレている。相当ずれている。ショックだった。何千キロも一緒に旅していた仲間であり、自分なりに良いバイクと勝手に思っていた。学んだ。彼が言うことはバイクを扱うプロの意見である。しかし、自分が相性良いと思って何千キロと乗っていて乗り回していると思っているという事実は確かだった。これからさらに何千キロと一緒に行くことに不安もなかった。このバイクを気に入っていた。自分が良いと信じて疑わない。それでよい。そういうこともバイクは教えてくれた。

バイクの色に合わせてヘルメットも黒を基調として赤の線が入っているものにした。すぐに決まった。最初のバイクを受け取るときは、前日から眠ることができなかった。初めて自分の力で手にしたものである。バスでバイクショップに向かった。メットを持ってバイクに乗るのは恥ずかしかった。バスは空いていたので、一番前の席に座った。バイクショップのバス停を見逃さないためだ。乗りながら、上手く運転できるか?バイクショップから出るときが一番緊張した。何回も頭の中で練習した。メットを被った。新品の良い匂いがした。頭にすっぽりとfitした。バイクに跨った。スタンドをはずすと、ずっしりと重さが両足に来た。250ccのバイクなのに、こんなに重いのかと思った。ショップの人の目線が気になった。見定めているようだった。期待を裏切るように頑張ろうと燃えた。クラッチを切り、セルボタンを押す。上手く掛かった。右からの車がないことを確認して、ゆっくりと発進した。「できた!」うれしかった。風が気持ちよかった。時間に縛られないで気のままに運転した。楽しかった。一歩進んだ気がした。