バーボン

店に客はいなかった。マスターは30前後の話しかけやすそうな雰囲気の人だった。8人席のカウンターだけだった。濃い茶系の色で室内を統一していて落ち着きを感じつつもダウンライトや壁の至る所に設置している角形のライトが明るい気さくな雰囲気を醸し出している。カウンターにウィスキーやバーボンが5本立ててあり、壁にずらりと不足しているのを補ってあまりあるようにビンが並んでいる。奥の壁の席に座った。椅子は少しゆったりした半円形の背もたれがあり、座り心地がよかった。「何を飲まれますか。」、とマスターが丁寧に聞いてきた。「こういう店に入るのは、初めてなのですが、何を飲んだら良いですか?」、素直に聞いた。ビールや酎ハイしか普段は飲まないのに何を頼んでいいか分からなかった。親父がのんでいるウィスキーはサントリーリザーブだった。だるまと呼ばれているのもよく家にあった。ジョニ黒といのも聞いたことがある。「若いからバーボンはどう?強いの?」「まあ弱くは無いですかね。」、と強がった。「初心者は、アーリータイムズかな。」、といわれそれを頼んだ。「まずはストレートで飲んでみな。それで味わって、濃いと思ったらロックで飲む。ゆっくりと飲む。水割りは酒の味を損なうから勧めない。」小さいコップとグラスに水が出て来た。「これはチェイサーというんだ。ストレートで飲んで喉が渇いたらチェイサーを飲む。そして、雰囲気を味わったり、話をする。そういう飲み方がいいかな。」、といろいろと話を聞くことができた。ひとくち飲んだところ、口の中にアルコールの刺激がしたと思ったら、芳醇な香りが発散されてきた。「うまい!」と口からでた。「けっこういけるねぇ。」といわれた。うれしかった。「つまみはナッツ類、アーモンド・くるみが基本だな。これを一つ食べて、またひとくちバーボンを飲む。」言われるとおりやってみた。アーモンドを食べてバーボンを飲んだ。口の中に香ばしいアーモンドの風味が充満したところでバーボンの刺激と相まって絶妙のテイストを感じることができた。「バーボンは、コーンからできているんだ。アメリカ産でスコッチウィスキーとはテイストが違う。アメリカを感じることができる。俺はアメリカいったときにバーでバーボンを知った。奴らはロックグラスにいれてストレートで飲む。そういうのがあう酒だ。」マスターの話が楽しく、バーボンの飲み方がわかったのがさらに嬉しかった。2杯目を飲んだところ、別の客が入ってきたので帰ることにした。「マスター、ありがとう。また来るよ!」「今度は違うバーボンを教えてやるよ。」楽しい酒だった。ひとりでいける店があるのは楽しいと思った。